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思わぬところで先週先々週とうったか乗車してきましたが、今週はしません(笑)
その代わり京葉さんのお膝元にウザギ狩り…じゃなかった、たまご狩りしてきます(笑)
ようやく、うつたか+東北上越のSSをUPできそうです。
書き始めたのは去年、で、なんでこんなに時間がかかってるんだ…?(次から次へと書き散らかしてるからです)
タイトル思いつかなくて、もうまんまつけた(苦笑)
長いので2部に分けます。前半はほっとんど群馬勢(笑)
その代わり京葉さんのお膝元にウザギ狩り…じゃなかった、たまご狩りしてきます(笑)
ようやく、うつたか+東北上越のSSをUPできそうです。
書き始めたのは去年、で、なんでこんなに時間がかかってるんだ…?(次から次へと書き散らかしてるからです)
タイトル思いつかなくて、もうまんまつけた(苦笑)
長いので2部に分けます。前半はほっとんど群馬勢(笑)
その日、上越は不機嫌だった。
トラブルもなく運行は順調、夏休み入ってすぐの週末とあってホームは子連れや学生の団体などで賑やかだ。今日は下も珍しくどこからも運休・遅延情報が届くことはなく、問題なく動いているらしい。空は綺麗に晴れ渡り、陽射しが痛いくらいに照り付けているといえばそうだが、まあ夏なのだからそれは当たり前だろう。むしろこのところ戻り梅雨でぐずついた天気が多かったので、久しぶりに太陽が出て気分も晴れやかになっている者も少なくない。
だが、上越は機嫌が悪かった。
虫の居所が悪い、と言った方が良いかもしれない。誰かと喧嘩したとかイヤなことがあったとか、具体的な要因は見出せず、ただ無性に苛々している、そんなところだ。朝から何となく倦怠感はあったが体調が悪いわけでもなく、そのまま一日が終わる頃には苛々感はピークに達していた。
もちろん、上越はそんなこと表には出さない。いつも通り皮肉は言うけれど対応は穏やかに。腹の底は誰にも悟らせない。自分の感情を悟られるだなんて、みっともない真似はできない。
東海道はよくあんな人前で喜怒哀楽をさらけ出せるものだと、感心してしまう。自分には到底できない、もっともできなくて一向に構わないと上越自身は思っているが。
上越が不機嫌に見える時はそう装っているのであって、それはえてしてそう「見せた」方が有利だと計算した上での行動だ。だから、本当に上越が不機嫌な時は、逆に誰も気付かない。
唯一、上越の隠された感情を見抜ける男がいるにはいるが、残念ながらその彼は今この場にはいなかった。
また同時にその彼が上越を止める最強のストッパーでもあるため、したがって今、上越を止められる術は何もない。
ましてや、直接の部下である高崎に、1ミリでも上越を止める力なんてあろうはずもなかった。
「…あの…」
「何?」
自分の目の前でにこにこと微笑む上越に、高崎はどうしたらこの情況を切り抜けられるか、効果のある言葉を探していた。
高崎の手に握られているのは薄く青みがかった切子のグラス。中には透明に透き通った新潟産の地酒、久保田の万寿が注がれている。普段の高崎なら滅多に口にする事のない酒だ。ただ、せっかくの高級酒だがグラスの水位はさほど変わらず、すっかり温まっていた。
そして高崎の前に座る上司は、その手に徳利をもち、高崎のグラスが空になるのを今かと待ち受けていた。
「ほら、早く飲んで飲んで。でないと、次が注げないじゃない」
「や、あのもう俺は…」
「なに、上官の酒が飲めないって言うんだ?」
「いや、そうじゃなくて…」
笑顔で首を傾け問いかける上越に、高崎は言いたい言葉を飲み込み押し黙った。
そう言われれば体育会系体質の高崎は断れないことを知っていて、上越が徳利を差し出し傾ける仕草をする。
そしてその予想を裏切ることなく、高崎はため息をつくと仕方なくグラスを口に運び中身を飲み出した。
深い味わいが何の感動も伴わず、喉を流れていく。
ようやくグラスの底が空気に触れると、そこにすかさず上越が新たな酒を足す。再びグラスが満たされていくのを高崎は諦めを含んだ瞳で眺めていた。
先程から、この繰り返しだった。
仕事上がりにいきなり上越から声をかけられたのが、数時間前。突然飲みに行こうと誘われ、無理矢理連行された。
今日は仕事が終わったら宇都宮と食事に行く予定だった。そう言って最初は断ったのだが、上官命令といわれては逆らえず、仕方なく宇都宮にメールでキャンセルの連絡を入れた。
宇都宮はなぜか上越上官が絡むと途端に不機嫌になるのを知っていたから、後の事を考えると気は重かったがやむを得ない。
そうして上越が常連だという飲み屋に連れて行かれて、高崎は促されるまましこたま酒を飲まされているのだった。
もう何度上越に注がれてグラスを空にしたかわからない。高崎は酒に弱い方ではないが、宇都宮のようにワクでもない。何より体質ですぐに顔が赤くなるので、今もすでに茹蛸のようになっていた。
まずビールがきて、それから度数はけして低くはないが、飲み口は優しい純米酒を取っ替え引っ替え。上越もけして飲んでないわけではないのだが、その倍以上は軽く飲まされ、高崎はそろそろ自分の限界を感じていた。
これ以上飲んだら潰れる。が、流石にこの場で潰れるわけにはいかなかった。これが同僚なら酔っ払って面倒みてもらっても翌日謝れば済む話だが、相手は上官だ。いくら酒をすすめる張本人とはいえ、潰れた後の面倒をかけるわけにはいかない。
上越上官は顔はにこにことしているが、とてつもなく押しが強い。その無言の圧力に負けて勧められるまま飲んで付き合ってきたが、そろそろ本気で辞退しないとまずい、と高崎はグラスの中の澄んだ水面を見つめながら改めて意を決していた。
それとは別に、高崎の頭の片隅にはずっと宇都宮の事が引っ掛かっていた。
本来なら目の前にいただろう彼に、食事のキャンセルをメールで入れたきり、高崎は携帯を見ていない。ズボンのポケットで何度か振動していたのは知っていたが、取り出して見るだけの余裕を上越は与えてはくれなかった。
繋がらない携帯に、おそらく宇都宮はかなり怒っている、もしくは心配(心配といっても彼の場合は歪んだ方向を向いているのだが)しているだろう。とにかくメールに目を通すだけでもしておきたい。
高崎はグラスから手を離すと、ゆっくり席を立った。
立ち上がった途端に目眩がして、咄嗟に足を踏み締める。倒れこそしないが頭がぐらぐらとしてやけに不安定で、大分酒が回っているとわかる。
「すみません、ちょっと手洗い行ってきます」
「行ってらっしゃい」
流石にそこまでは上越も止めることはなく、手を振って高崎を送り出した。
空席になった向かいを見つめながら、上越は一人笑みを浮かべながら徳利に残っていた分を己のグラスに注ぎ、口に運んだ。
可愛い相手を肴に飲む酒は美味い。本当に高崎は従順で、反応がいちいち素直で可愛い。
今日も彼があの同じ色の彼氏と何か約束していたのは知っていた。あの二人がホームで話していたのを上越はちらりと聞いていたのだ。おそらく彼らからは死角で気付いてはいなかっただろうが。
だからあえて高崎を誘った。そうしたら、この従順な部下はどうするのか、と。
上越本人は自覚していなかったが、自分が不機嫌な時に幸せそうにしている(と、上越にはそう見える)彼らに苛立ったのも、また事実だった。それはその日虫の居所が悪かった上越の、八つ当たりに過ぎなかった。
結果として高崎は彼氏ではなく、自分を選んだ。それはたとえ上司の要請であってやむなくだったとしても、不機嫌だった上越の優越感を満足させ、ほんの少しだけ胸がすっとした。
さて、これからどうするか。腹いせで気は済んだから、そろそろ高崎を解放してやるか。大分酔って足元も覚束なくなってきているようだし、明日も仕事はある。
それともそのまま介抱にかこつけて、つまみ食いしてやるか―――自分より身長の高い相手を組み敷くのは大変だが、まああれだけ酔ってればさほど苦労でもないだろう。あの素直な男が、抱かれるとどんな反応を示すのか、興味がないといえば嘘になる。
それと自分のものが他人に寝盗られたと知ったら、あの垂れ目の彼氏はどんなに怒り狂うか。それを考えるとわくわくする気もした。
上越がそんな物騒な妄想に浸っていると、しばらくしてトイレから高崎が戻ってきた。
少し時間が掛かっていたのは、トイレで吐いていたのか。高崎の顔色は幾分か元に戻り、気分が落ち着いたようだった。
席に着くなり、高崎はこれで何度目かの辞退を切り出そうと、上越に声をかけた。
「あの」
「さっきから何?いいたい事があるならいいなよ」
「そろそろ引き上げませんか?大分飲んでますし、明日も早いですし…」
冷静さを取り戻したのか高崎ははっきりとした口調で上越に申し出た。上越としても頃合いかと思っていたところだ、それについて異存はないはずだった。
が、他人に言われると逆らってみたくなるのが彼の悪い癖で、上越は心外そうに目を見開くと高崎を凝視した。
「何言ってるの、これしきで根を上げるなんて。大体、まだ夜明けまでは長いよ。こんな時間、普段なら彼氏といちゃいちゃしてる時間なんじゃないの」
「な、え、えぇっ…!?」
上越がさらりと投げた爆弾発言に、高崎の声が裏返った。
動揺の余り椅子から転げ落ちそうなり、目が落ち着きをなくす。多分素面なら顔を真っ赤にしたところだろうが、すでに赤くなっているためわからないのが残念だ。
部下がオロオロしているのに笑って、上越はさらに高崎に詰め寄った。
「隠さなくても知ってるよ、何だっけあの、東北の部下の彼だろ?宇都宮、だったっけ。見てたよ、今日仲よさ気に話してたじゃない。ね、どうなの、彼ってエッチ上手いの?」
「じじじじじ上官…っ?」
「なんかねちっこそうな感じだったよねぇ、夜もあんな風なのかな、それとも意外に優しいのかな。あ、それとももしかして君のが上?あの彼氏がネコって感じでもないけど。話聞かせてよ、こういう話って上じゃなかなか出来なくてさ」
「あの、いやそれはちょっと…」
この場にいない宇都宮と高崎の睦まじい様子を想像しているのか、上越がナナメ上に視線を向けながら嬉々として尋ねてくる。高崎は言葉を失い、ただ困惑した瞳で上司を見つめていた。
飲みが進むにつれ猥談が始まるのは飲み会の道理だとしても、何の前触れもない突然の追及に高崎は面食らっているようだった。「そんな関係じゃない」と突っぱねてしまえばそれまでなのに、本当に嘘がつけない性格だ。
上越は更に身を乗り出して高崎に問い掛けた。
「ねえ、君達って月に何回くらいエッチしてるの?それとも週で数えられる?まさか毎日ってことはないよね?」
「あ、あの上官…っ」
「こういう仕事だとそうそうホテルなんて使えないでしょ、やっぱり普段はどっちかの部屋だよね?君達のとこの宿舎古いでしょ、隣に聞こえるかも、って心配とかしない?」
「上越上官っ…」
高崎は酔いとは違う目眩を覚え頭を押さえながら、上越を制止しようとした。
矢継ぎ早の上越の尋問に、高崎は泣きそうになっていた。そこがまた可愛くて、いじめたくなる。不本意だが多分あの彼氏も同じだろう。つい構いたくなるのだ。
こんな可愛い素材を独り占めしようなんて狡過ぎる。ここぞとばかりに上越が高崎をからかおうとした、その時だった。
「部屋は数年前に防音工事されているのでご心配なく」
ひやりとした声がテーブルの脇から聞こえ、唐突に高崎は肩をがしっと掴まれた。
その声に高崎と上越が振り向くと、私服姿の宇都宮がそこに立っていた。顔は笑顔だが目は全く笑っていない。やや汗ばんでいるのは全速力でここに駆けつけたからか。
「宇都宮…っ」
強力な援軍の登場に、明らかに高崎がほっとした顔をする。反対に、上越はそれまで高崎に向けていたのとは真反対の、険を含んだ瞳で長身の男を見上げた。
本来ならいないはずの彼氏が突然この場に現われたのに、高崎はさほど驚いていないようだった。ということは、彼自身がトイレに行っている間にこっそり呼び出したか。
それにしたって、宿舎から駆けつけてくるには随分と早いお出ましだが。
宇都宮は高崎の肩から腕を掴み直し、引っ張り上げて高崎を立たせると、腰に手を回して自分に寄りかからせるようにした。高崎も宇都宮に縋るように肩に腕を回す。頼れる人が来たことで気が抜けたのか、ぐったりとして、足がふらふらしていた。
宇都宮は高崎を抱き留める様子を見せつけるようにその身体を引き寄せると、上越に冷たい眼差しを向けた。
「高崎は引き取りますので、これで失礼します」
「上司との飲み会で勝手に連れ出す気?随分いい度胸だね」
「先約をキャンセルさせて、明日の仕事に支障をきたすほど部下に飲ませるなんて、良識ある上司の行動とは思えませんが」
「あは、何、それって嫉妬?高崎取られて悔しかったんだ?」
高崎を抱え見下ろす宇都宮と、テーブルに肩肘を付見上げる上越の視線がぶつかり、火花が散る。上越の挑発に宇都宮はカチン、と来た様子はあったものの、すぐに冷薄な笑みを浮かべて挑発には乗らなかった。
「いいえ、それ自体は特に。まだ夜は長いですから」
「残りの時間は自分のものだって言いたいわけ?」
上越の問いに宇都宮は答えなかった。しかしその無言が、そして高崎を抱き留める腕を狭めたその様子が、雄弁に肯定を語っていた。時間の共有だけではなく、高崎自身も自分のものだ、と。
ここまで見せびらかされて、黙っている上越ではない。珍しくムッとして顔を見せ眉間に皺を寄せると、手許にあった飲みかけのグラスを煽る。
「悪いけどまだ飲み終わってない、彼は僕が送っていくからキミは先に帰っていいよ」
しかし宇都宮は高崎を手離すことはなく、平然として首を横に振る。
「いいえ、残念ですがこれでお開きですね」
「キミにその権限はない」
「私の権限ではなく、事実です。後ろに、貴方にもお迎えがいらしてますから」
「は?」
宇都宮の視線が上越から離れその背後に向けられる。告げられた言葉に一瞬きょとんとした上越は、一瞬遅れてその意味を理解するとはっとして上半身を捻じ曲げ背後を振り返った。
と、そこに宇都宮と同じく私服に着替えた上越の寡黙な同僚が、腕を胸の前で組み仁王立ちしていた。
「わ、東北…っ」
「お前は、また下に迷惑をかけて」
「迷惑なんてかけてないよ、一緒に飲んでただけじゃないかっ」
怖いものなしの上越が唯一思い通りにならない者、東北の出現に、途端に上越の威厳が消える。一方的な決め付けに上越は子供のように頬を膨らませると、東北に反論した。
だが東北は問答無用とばかりに上越の首根っこを掴むと、猫を持ち上げるように上越を立ち上がらせた。
「帰るぞ」
「ちょ、待ってよこのままじゃ歩けないよ…っ」
上越の意思など無関係でそのまま歩き出そうとする東北に、首根っこを押さえられたままの上越がもがく。だが東北はその力を緩めることはなく、ずるずると上越は引きずられていった。
すれ違いざまに高崎を抱えた宇都宮が東北に会釈する。
「助かりました」
「こちらこそ迷惑をかけた。そっちは大丈夫か」
「僕がついてますので」
宇都宮がうっすらと微笑を見せる。彼の腕に収まる高崎は辛うじて自力で立っているものの、眠気が来ているのかうとうとと瞼が落ちそうになっている。本来なら上官を前に酔い潰れた姿など醜態もいいところだが、それすら気付いていないらしい。
己の肩を枕に寄りかかられ、かなり体重を預けられていて重いはずなのに、宇都宮はどこか嬉しそうだった。
東北は部下の幸せそうな表情に自らも小さく笑むと、右手に掴んだものをぐい、と引っ張った。ぐ、と服の襟で喉を締められ上越が唸った。
「これは後で厳しく言っておく」
そうして東北は上越を引きずり、レジで全ての代金を支払うと店を出て行った。宇都宮もまたそれを見送ると、眠そうにしている高崎を歩かせ店を後にするのだった。
トラブルもなく運行は順調、夏休み入ってすぐの週末とあってホームは子連れや学生の団体などで賑やかだ。今日は下も珍しくどこからも運休・遅延情報が届くことはなく、問題なく動いているらしい。空は綺麗に晴れ渡り、陽射しが痛いくらいに照り付けているといえばそうだが、まあ夏なのだからそれは当たり前だろう。むしろこのところ戻り梅雨でぐずついた天気が多かったので、久しぶりに太陽が出て気分も晴れやかになっている者も少なくない。
だが、上越は機嫌が悪かった。
虫の居所が悪い、と言った方が良いかもしれない。誰かと喧嘩したとかイヤなことがあったとか、具体的な要因は見出せず、ただ無性に苛々している、そんなところだ。朝から何となく倦怠感はあったが体調が悪いわけでもなく、そのまま一日が終わる頃には苛々感はピークに達していた。
もちろん、上越はそんなこと表には出さない。いつも通り皮肉は言うけれど対応は穏やかに。腹の底は誰にも悟らせない。自分の感情を悟られるだなんて、みっともない真似はできない。
東海道はよくあんな人前で喜怒哀楽をさらけ出せるものだと、感心してしまう。自分には到底できない、もっともできなくて一向に構わないと上越自身は思っているが。
上越が不機嫌に見える時はそう装っているのであって、それはえてしてそう「見せた」方が有利だと計算した上での行動だ。だから、本当に上越が不機嫌な時は、逆に誰も気付かない。
唯一、上越の隠された感情を見抜ける男がいるにはいるが、残念ながらその彼は今この場にはいなかった。
また同時にその彼が上越を止める最強のストッパーでもあるため、したがって今、上越を止められる術は何もない。
ましてや、直接の部下である高崎に、1ミリでも上越を止める力なんてあろうはずもなかった。
「…あの…」
「何?」
自分の目の前でにこにこと微笑む上越に、高崎はどうしたらこの情況を切り抜けられるか、効果のある言葉を探していた。
高崎の手に握られているのは薄く青みがかった切子のグラス。中には透明に透き通った新潟産の地酒、久保田の万寿が注がれている。普段の高崎なら滅多に口にする事のない酒だ。ただ、せっかくの高級酒だがグラスの水位はさほど変わらず、すっかり温まっていた。
そして高崎の前に座る上司は、その手に徳利をもち、高崎のグラスが空になるのを今かと待ち受けていた。
「ほら、早く飲んで飲んで。でないと、次が注げないじゃない」
「や、あのもう俺は…」
「なに、上官の酒が飲めないって言うんだ?」
「いや、そうじゃなくて…」
笑顔で首を傾け問いかける上越に、高崎は言いたい言葉を飲み込み押し黙った。
そう言われれば体育会系体質の高崎は断れないことを知っていて、上越が徳利を差し出し傾ける仕草をする。
そしてその予想を裏切ることなく、高崎はため息をつくと仕方なくグラスを口に運び中身を飲み出した。
深い味わいが何の感動も伴わず、喉を流れていく。
ようやくグラスの底が空気に触れると、そこにすかさず上越が新たな酒を足す。再びグラスが満たされていくのを高崎は諦めを含んだ瞳で眺めていた。
先程から、この繰り返しだった。
仕事上がりにいきなり上越から声をかけられたのが、数時間前。突然飲みに行こうと誘われ、無理矢理連行された。
今日は仕事が終わったら宇都宮と食事に行く予定だった。そう言って最初は断ったのだが、上官命令といわれては逆らえず、仕方なく宇都宮にメールでキャンセルの連絡を入れた。
宇都宮はなぜか上越上官が絡むと途端に不機嫌になるのを知っていたから、後の事を考えると気は重かったがやむを得ない。
そうして上越が常連だという飲み屋に連れて行かれて、高崎は促されるまましこたま酒を飲まされているのだった。
もう何度上越に注がれてグラスを空にしたかわからない。高崎は酒に弱い方ではないが、宇都宮のようにワクでもない。何より体質ですぐに顔が赤くなるので、今もすでに茹蛸のようになっていた。
まずビールがきて、それから度数はけして低くはないが、飲み口は優しい純米酒を取っ替え引っ替え。上越もけして飲んでないわけではないのだが、その倍以上は軽く飲まされ、高崎はそろそろ自分の限界を感じていた。
これ以上飲んだら潰れる。が、流石にこの場で潰れるわけにはいかなかった。これが同僚なら酔っ払って面倒みてもらっても翌日謝れば済む話だが、相手は上官だ。いくら酒をすすめる張本人とはいえ、潰れた後の面倒をかけるわけにはいかない。
上越上官は顔はにこにことしているが、とてつもなく押しが強い。その無言の圧力に負けて勧められるまま飲んで付き合ってきたが、そろそろ本気で辞退しないとまずい、と高崎はグラスの中の澄んだ水面を見つめながら改めて意を決していた。
それとは別に、高崎の頭の片隅にはずっと宇都宮の事が引っ掛かっていた。
本来なら目の前にいただろう彼に、食事のキャンセルをメールで入れたきり、高崎は携帯を見ていない。ズボンのポケットで何度か振動していたのは知っていたが、取り出して見るだけの余裕を上越は与えてはくれなかった。
繋がらない携帯に、おそらく宇都宮はかなり怒っている、もしくは心配(心配といっても彼の場合は歪んだ方向を向いているのだが)しているだろう。とにかくメールに目を通すだけでもしておきたい。
高崎はグラスから手を離すと、ゆっくり席を立った。
立ち上がった途端に目眩がして、咄嗟に足を踏み締める。倒れこそしないが頭がぐらぐらとしてやけに不安定で、大分酒が回っているとわかる。
「すみません、ちょっと手洗い行ってきます」
「行ってらっしゃい」
流石にそこまでは上越も止めることはなく、手を振って高崎を送り出した。
空席になった向かいを見つめながら、上越は一人笑みを浮かべながら徳利に残っていた分を己のグラスに注ぎ、口に運んだ。
可愛い相手を肴に飲む酒は美味い。本当に高崎は従順で、反応がいちいち素直で可愛い。
今日も彼があの同じ色の彼氏と何か約束していたのは知っていた。あの二人がホームで話していたのを上越はちらりと聞いていたのだ。おそらく彼らからは死角で気付いてはいなかっただろうが。
だからあえて高崎を誘った。そうしたら、この従順な部下はどうするのか、と。
上越本人は自覚していなかったが、自分が不機嫌な時に幸せそうにしている(と、上越にはそう見える)彼らに苛立ったのも、また事実だった。それはその日虫の居所が悪かった上越の、八つ当たりに過ぎなかった。
結果として高崎は彼氏ではなく、自分を選んだ。それはたとえ上司の要請であってやむなくだったとしても、不機嫌だった上越の優越感を満足させ、ほんの少しだけ胸がすっとした。
さて、これからどうするか。腹いせで気は済んだから、そろそろ高崎を解放してやるか。大分酔って足元も覚束なくなってきているようだし、明日も仕事はある。
それともそのまま介抱にかこつけて、つまみ食いしてやるか―――自分より身長の高い相手を組み敷くのは大変だが、まああれだけ酔ってればさほど苦労でもないだろう。あの素直な男が、抱かれるとどんな反応を示すのか、興味がないといえば嘘になる。
それと自分のものが他人に寝盗られたと知ったら、あの垂れ目の彼氏はどんなに怒り狂うか。それを考えるとわくわくする気もした。
上越がそんな物騒な妄想に浸っていると、しばらくしてトイレから高崎が戻ってきた。
少し時間が掛かっていたのは、トイレで吐いていたのか。高崎の顔色は幾分か元に戻り、気分が落ち着いたようだった。
席に着くなり、高崎はこれで何度目かの辞退を切り出そうと、上越に声をかけた。
「あの」
「さっきから何?いいたい事があるならいいなよ」
「そろそろ引き上げませんか?大分飲んでますし、明日も早いですし…」
冷静さを取り戻したのか高崎ははっきりとした口調で上越に申し出た。上越としても頃合いかと思っていたところだ、それについて異存はないはずだった。
が、他人に言われると逆らってみたくなるのが彼の悪い癖で、上越は心外そうに目を見開くと高崎を凝視した。
「何言ってるの、これしきで根を上げるなんて。大体、まだ夜明けまでは長いよ。こんな時間、普段なら彼氏といちゃいちゃしてる時間なんじゃないの」
「な、え、えぇっ…!?」
上越がさらりと投げた爆弾発言に、高崎の声が裏返った。
動揺の余り椅子から転げ落ちそうなり、目が落ち着きをなくす。多分素面なら顔を真っ赤にしたところだろうが、すでに赤くなっているためわからないのが残念だ。
部下がオロオロしているのに笑って、上越はさらに高崎に詰め寄った。
「隠さなくても知ってるよ、何だっけあの、東北の部下の彼だろ?宇都宮、だったっけ。見てたよ、今日仲よさ気に話してたじゃない。ね、どうなの、彼ってエッチ上手いの?」
「じじじじじ上官…っ?」
「なんかねちっこそうな感じだったよねぇ、夜もあんな風なのかな、それとも意外に優しいのかな。あ、それとももしかして君のが上?あの彼氏がネコって感じでもないけど。話聞かせてよ、こういう話って上じゃなかなか出来なくてさ」
「あの、いやそれはちょっと…」
この場にいない宇都宮と高崎の睦まじい様子を想像しているのか、上越がナナメ上に視線を向けながら嬉々として尋ねてくる。高崎は言葉を失い、ただ困惑した瞳で上司を見つめていた。
飲みが進むにつれ猥談が始まるのは飲み会の道理だとしても、何の前触れもない突然の追及に高崎は面食らっているようだった。「そんな関係じゃない」と突っぱねてしまえばそれまでなのに、本当に嘘がつけない性格だ。
上越は更に身を乗り出して高崎に問い掛けた。
「ねえ、君達って月に何回くらいエッチしてるの?それとも週で数えられる?まさか毎日ってことはないよね?」
「あ、あの上官…っ」
「こういう仕事だとそうそうホテルなんて使えないでしょ、やっぱり普段はどっちかの部屋だよね?君達のとこの宿舎古いでしょ、隣に聞こえるかも、って心配とかしない?」
「上越上官っ…」
高崎は酔いとは違う目眩を覚え頭を押さえながら、上越を制止しようとした。
矢継ぎ早の上越の尋問に、高崎は泣きそうになっていた。そこがまた可愛くて、いじめたくなる。不本意だが多分あの彼氏も同じだろう。つい構いたくなるのだ。
こんな可愛い素材を独り占めしようなんて狡過ぎる。ここぞとばかりに上越が高崎をからかおうとした、その時だった。
「部屋は数年前に防音工事されているのでご心配なく」
ひやりとした声がテーブルの脇から聞こえ、唐突に高崎は肩をがしっと掴まれた。
その声に高崎と上越が振り向くと、私服姿の宇都宮がそこに立っていた。顔は笑顔だが目は全く笑っていない。やや汗ばんでいるのは全速力でここに駆けつけたからか。
「宇都宮…っ」
強力な援軍の登場に、明らかに高崎がほっとした顔をする。反対に、上越はそれまで高崎に向けていたのとは真反対の、険を含んだ瞳で長身の男を見上げた。
本来ならいないはずの彼氏が突然この場に現われたのに、高崎はさほど驚いていないようだった。ということは、彼自身がトイレに行っている間にこっそり呼び出したか。
それにしたって、宿舎から駆けつけてくるには随分と早いお出ましだが。
宇都宮は高崎の肩から腕を掴み直し、引っ張り上げて高崎を立たせると、腰に手を回して自分に寄りかからせるようにした。高崎も宇都宮に縋るように肩に腕を回す。頼れる人が来たことで気が抜けたのか、ぐったりとして、足がふらふらしていた。
宇都宮は高崎を抱き留める様子を見せつけるようにその身体を引き寄せると、上越に冷たい眼差しを向けた。
「高崎は引き取りますので、これで失礼します」
「上司との飲み会で勝手に連れ出す気?随分いい度胸だね」
「先約をキャンセルさせて、明日の仕事に支障をきたすほど部下に飲ませるなんて、良識ある上司の行動とは思えませんが」
「あは、何、それって嫉妬?高崎取られて悔しかったんだ?」
高崎を抱え見下ろす宇都宮と、テーブルに肩肘を付見上げる上越の視線がぶつかり、火花が散る。上越の挑発に宇都宮はカチン、と来た様子はあったものの、すぐに冷薄な笑みを浮かべて挑発には乗らなかった。
「いいえ、それ自体は特に。まだ夜は長いですから」
「残りの時間は自分のものだって言いたいわけ?」
上越の問いに宇都宮は答えなかった。しかしその無言が、そして高崎を抱き留める腕を狭めたその様子が、雄弁に肯定を語っていた。時間の共有だけではなく、高崎自身も自分のものだ、と。
ここまで見せびらかされて、黙っている上越ではない。珍しくムッとして顔を見せ眉間に皺を寄せると、手許にあった飲みかけのグラスを煽る。
「悪いけどまだ飲み終わってない、彼は僕が送っていくからキミは先に帰っていいよ」
しかし宇都宮は高崎を手離すことはなく、平然として首を横に振る。
「いいえ、残念ですがこれでお開きですね」
「キミにその権限はない」
「私の権限ではなく、事実です。後ろに、貴方にもお迎えがいらしてますから」
「は?」
宇都宮の視線が上越から離れその背後に向けられる。告げられた言葉に一瞬きょとんとした上越は、一瞬遅れてその意味を理解するとはっとして上半身を捻じ曲げ背後を振り返った。
と、そこに宇都宮と同じく私服に着替えた上越の寡黙な同僚が、腕を胸の前で組み仁王立ちしていた。
「わ、東北…っ」
「お前は、また下に迷惑をかけて」
「迷惑なんてかけてないよ、一緒に飲んでただけじゃないかっ」
怖いものなしの上越が唯一思い通りにならない者、東北の出現に、途端に上越の威厳が消える。一方的な決め付けに上越は子供のように頬を膨らませると、東北に反論した。
だが東北は問答無用とばかりに上越の首根っこを掴むと、猫を持ち上げるように上越を立ち上がらせた。
「帰るぞ」
「ちょ、待ってよこのままじゃ歩けないよ…っ」
上越の意思など無関係でそのまま歩き出そうとする東北に、首根っこを押さえられたままの上越がもがく。だが東北はその力を緩めることはなく、ずるずると上越は引きずられていった。
すれ違いざまに高崎を抱えた宇都宮が東北に会釈する。
「助かりました」
「こちらこそ迷惑をかけた。そっちは大丈夫か」
「僕がついてますので」
宇都宮がうっすらと微笑を見せる。彼の腕に収まる高崎は辛うじて自力で立っているものの、眠気が来ているのかうとうとと瞼が落ちそうになっている。本来なら上官を前に酔い潰れた姿など醜態もいいところだが、それすら気付いていないらしい。
己の肩を枕に寄りかかられ、かなり体重を預けられていて重いはずなのに、宇都宮はどこか嬉しそうだった。
東北は部下の幸せそうな表情に自らも小さく笑むと、右手に掴んだものをぐい、と引っ張った。ぐ、と服の襟で喉を締められ上越が唸った。
「これは後で厳しく言っておく」
そうして東北は上越を引きずり、レジで全ての代金を支払うと店を出て行った。宇都宮もまたそれを見送ると、眠そうにしている高崎を歩かせ店を後にするのだった。
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