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紙/端/国体劇場(青/春/鉄/道)様の二次創作ブログ。 初めていらした方はまず「このブログについて」をごらんください。
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ちょうど七夕に合わせてツイッタでSSをいただいたりしたので、自分もイベントSSをちょろっと書いてみました。そういや七夕のネタ書くのは久しぶり?あんま取り上げないネタでした(笑)

日本はこの時期梅雨だから、なかなか天の川は見られないよね。

 「…ああ、今日は七夕なんだっけ」
 昼食を取った帰り道、視界に駅構内でゆらゆらと揺れる笹飾りが入って来て、高崎は今日が何の日であるかを思い出した。今日は7月7日、日本では一般的に七夕と呼ばれている。子どものいる家庭や学校などでは笹に願い事を書いた短冊を吊して祈願する、伝来は中国だが仏教と神道の混じった、日本ならではのイベントである。
 クリスマスやバレンタインなどに比べるとイベント性としては地味だが、季節感を表すものとして駅などでも笹を飾り、昇降客に短冊を自由に書いて吊してもらっていた。
 小さな子供が一生懸命背を伸ばして笹に短冊を括り付けているのを眺めながら、高崎はついで窓の外を見遣って、やや寂しげにぽつりと呟いた。
「あー、この天気だと星空は見えねえな」
「今日は夕方から雨だって言ってたからねぇ」
 高崎が覗く窓の外は、駅の上空にどんよりとどこまでも灰色が広がっていて、お世辞にも良い天気とはいえない。星どころかもうじき水滴が空いっぱいに散りばめられそうな雰囲気を裏付けるように、隣を歩く宇都宮が朝見た天気予報を口にする。
 高崎は曇天から色とりどりの短冊が吊された笹に視線を戻し、その笹の左右に飾られている男女のパネルを見比べた。若い男女が古代日本のような中国のような衣装を纏っているイラストのそれは、七夕の主役、織姫と彦星をイメージしたものだ。
「七夕ってあれだろ、確か天気が悪いと織姫と彦星は会えないんだろ?年に一回しか会えないのに何だか可哀想だよな」
 天の川の両岸に住んでいる織姫と彦星は、年に一度、七夕の日にだけカササギが橋を渡してくれて、逢うことができる。
 幼い頃に聞いた限りで、もうすっかり朧気になっている七夕伝説の記憶を手繰りながら、高崎はふと隣にあるオレンジに目線を向けた。
 今、自分の隣に立っているのは毎日一緒にいる同僚兼恋人。シニカルでドSで、いつも喧嘩してばかりだけれど、年に一回しか会えないとしたらものすごく寂しいと思う。それも天候が悪かったらそのたった一日すら一年延期になってしまうなんて。織り姫と彦星がどうしてそういうことになってしまったのか、高崎はよく覚えていなかったが、神様は随分と意地悪な運命を与えたものだと思う。
 すると珍しく感傷に浸っている高崎を、宇都宮は鼻で笑った。
「まあ織姫と彦星の場合は自業自得だけどね、夫婦になった途端に仕事しなくなったんだから」
「え、そんな話だったっけ?」
 七夕の主役をか、それとも有名な説話を知らない高崎をなのか、小馬鹿にしたように笑う宇都宮に高崎がきょとんと目を丸くする。七夕ってもっと悲劇的な話じゃなかったっけ?と首を傾げる高崎に、宇都宮は小さく肩を竦めた。
「違うよ、元々は二人とも働き者だったのに結婚した途端怠けたから天帝が怒って引き離したんだ。真面目に働いてれば、年に一回の逢瀬しか許されないなんてことにはならなかったんだよ。だから自業自得。ちゃんと働いてれば、いつまでも一緒にいられたのにねぇ?」
 僕達みたいにね、と顔を覗き込むようにしてにっこりと微笑む宇都宮に、高崎は薄く頬を染めてそっぽを向いた。宇都宮にはバレている、高崎が織姫と彦星の境遇を自分と宇都宮に置き換えたら寂しくなってしまったことなど。
「まあ、日本ではこの季節は梅雨の真っ直中で、統計的に晴れる確率のが低いそうだからね。だからほぼ毎年常套句として言われてるだろう?『雲の上は晴れていますから、大丈夫です』って」
 地上からは分厚い雲が空を覆っていたとしても、天の川はその遥か上にある。だから織姫と彦星が逢うのには何ら障害はないのだ―――と、曇り空にがっかりしている子供に説くやや反則的な説明に、高崎はああ、そうかと幾分晴れやかな顔で駅構内の装飾の織姫と彦星に笑みを浮かべた。
「そうだよな、雨雲のがずっと低いもんな。地上の人達が夜空を見られないのが残念なだけか」
 高崎が子供騙しな説明に一人満足げに納得していると、宇都宮が目を細め小さく微笑んだ。
「いいんだよ、それで」
「何でだよ?だって、晴れてた方がいいだろ?」
 七夕の日に曇り空のがいいなんて、世間とは真逆の意見を口にする宇都宮に高崎が首を捻る。すると宇都宮はにっこりと微笑んで腕を高崎の腰に伸ばし、ひょい、と軽く抱き寄せた。
「だって、年に一度の逢瀬なんだよ?せっかくの夫婦水入らずなのに、君なら大勢の人に見られていたいと思う?」
 身体を密着させた宇都宮がそっと囁くように高崎の耳許でそう問いかけると、高崎の頬が赤く染まる。人の少ない時間帯とはいえ、ここは駅の構内で。咄嗟に往来の目を気にして身体を離したところで、高崎はようやく腑に落ちた。
「…思わねぇな」
 せっかく一日限りで逢えるのに、誰かの目を気にしてなんてたまったものじゃない。年に一度しか逢えないのなら、その限られた時間をギリギリまで二人きりで過ごしたい、と高崎なら考える。
「ね、だから曇り空でいいんだよ」
 そうしたら誰にも見られないじゃない、と呟く宇都宮に、高崎も相づちを打った。
「…そうだな」
 それなら七夕の夜に曇り空でも、悪い事じゃないと思える。
 納得してすっきりとした顔で笹を見つめる高崎に宇都宮が悪戯っぽく笑うと無防備に下ろされていたその手にきゅっと宇都宮の手が絡みついてきた。
「僕も高崎と誰にも見られないところに行きたいなぁ、今から」
 それは無論誰にも見られない場所で、見られてはいけないことをしたい、という宇都宮の暗黙の誘惑で。
 不謹慎な提案に高崎はふざけんな、といつものようにいなして宇都宮を振り切ろうとして、ふと思いついて言葉を変えた。
「ばぁーか。真面目に働かないと年に一回しか逢えなくなっちまうんだろ。俺はそんなのやだからな、真面目に働く」
 胸を張って言い返す高崎に、こちらもいつものように顔を赤くして怒ると思っていた宇都宮が目を丸くする。
 ほら行くぞ、と繋がれた手を引いて歩き出そうとする高崎に、逆に宇都宮はその手を引いてその場に引き留めた。
「それって、いつも一緒にいたいってことだよね?」
 同意を求めるようにじっと瞳を合わせると、高崎は真っ赤になって目を逸らし、そしてボソボソと呟いた。
「……そうだよ、言わせんなバカ」
 宇都宮が出張で東京からいなくなるのだって寂しいと思うのに、一年に一度なんて、自分なら絶対に寂しくて耐えられない。
 言動も態度も可愛いことをしてくれる高崎に、抱きしめたい衝動を堪え宇都宮は破顔すると繋いだ手をきゅ、っと強く握り締めた。
「じゃあ今は我慢するから、代わりに今晩はずっと高崎の傍にいさせてね、それこそ1ミリの隙もないくらいに」
 そう言って宇都宮は繋いだ手を急激に引くと、バランスを崩した高崎の身体を支える振りをしながら、人の目に映らないようにこっそりその唇を掠めたのだった。

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