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記念すべき(?)鉄道SS1作目です。
うつたかです。長いので、とりあえず前編…というか、1。(でも多分ブログでは長いと思う、ごめんなさい)
予定では3で終わるはずなのですが。(場合によっては4)
うつたかです。長いので、とりあえず前編…というか、1。(でも多分ブログでは長いと思う、ごめんなさい)
予定では3で終わるはずなのですが。(場合によっては4)
「俺、アイツに嫌われてるのかなぁ」
駅屋上。待ち合わせの時間待ちの間、フェンスにもたれながら外の風にあたっていた高崎がしょげた様子でそう呟くのに、隣で聞いていた京浜東北は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「………は!?」
京浜東北は別に高崎の発言を理解しなかったわけではない。前フリも何もない発言だったが、高崎がアイツ呼ばわりしたのが誰のことかなんて、尋ねるまでもなかった。
そもそも高崎にこんな顔をさせられる奴、1人しかいない。
同じ橙色の制服を来た、笑顔の裏に毒を持つ男。一卵性双生児のように背格好も顔立ちもそっくりなのに、醸し出す雰囲気があまりに違いすぎて見分けがつく。
叫んだ拍子にズリ落ちた眼鏡を直しながら、京浜東北はやや呆れ気味に溜息をついた。
「…今度は一体何されたの」
「今朝からずっと無理されてる。一言も口きかないし目も合わせない。機嫌悪いのかと思ったけど、他の奴には普通に話してるし」
またあの男はくだらない意地悪を。宇都宮が高崎にちょっかいをかけるのはいつもの事だ。
京浜東北は咄嗟にそう思ったが、しかし原因がないとも言い切れないので、俯く高崎に確認する。
「心当たりはあるの?」
「あったら悩んでねえよ」
はあ、と高崎はフェンスに懐くようにもたれながら、重い息を吐いた。頭上に広がる抜けるような青空が、場違いなくらいに爽やかで恨めしい。
「もー俺、アイツのことさっぱりわかんね。嫌いならいっそつきまとったりしなければいいのに」
おそらく今朝からずっと悩んでいたのだろう。根が真面目な高崎のことだから、自分に何か非があったのではないか、怒らせたのではないか、そんな事をぐるぐる考えていたのに違いない。
悩みすぎていささか自棄になっている高崎の言葉に、え、と京浜東北は眉を寄せた。
「それはないでしょ。宇都宮は嫌いな人間には何かやむを得ない事態がない限り、近寄ろうとしないよ」
それこそ君の上官とかさ―――と、口にはしなかったが京浜東北は彼の毛嫌いしている、上を走る深緑の制服の男を思い浮かべた。まああれはある意味同族嫌悪だけれど。
だが高崎は京浜東北の意見には納得しかねたようで、むっとして口を尖らせた。
「じゃあ何で俺ばっかり嫌がらせされるんだよ。ここ最近だけでも俺のアイス勝手に食ったり、ジュースにタバスコ入れたり1時間に60回携帯に留守電入れてみたり」
「それはまた…随分と……」
宇都宮にしてはひねりのない、可愛らしい意地悪だこと。それでは嫌がらせ、というより単なるちょっかいである。あの男が頭を使わない悪戯を仕掛けているなんて考えられないのだが、それは軽い挨拶のようなものか、それともよほど余裕がなくなっているのか。
京浜東北が思わず絶句したのはあの宇都宮が稚拙といえる仕掛け方をした事についてだったのだが、高崎はそれを「度重なる嫌がらせ」への共感だと受け取ったらしい。
ヒドイだろ?とそこだけは強気で同意を求めてくるのに、突き放すように京浜東北は手のひらをぱたぱたと振った。
「いやそうじゃなくて。それは多分……構って欲しいんじゃないかと」
何でもいいから高崎に反応して欲しくて。いつもならじっくり罠にかけて楽しむのに、目についたら何かせずにはいられなくなっている。何だろう、まるで焦っているかのような―――そう、それは飢えた獣のように、見境がなくなっている。
京浜東北は宇都宮の異変をそう推察した。が、実際被害者の高崎はそれでは納得しないようで。
「はぁ?構って欲しいんなら普通にそう言えばいいじゃん。なんでそれで嫌がらせするんだよ」
「宇都宮がそんなこと素直に言うわけないでしょ」
「けど嫌がらせなんてしたって、構うわけないじゃん。余計遠ざけないか?普通」
「いやほら、好きな子はついいじめたくなる、っていうか」
「何それ」
きょとん、と首を傾げた高崎に、知らないの?と京浜東北は逆に問い返してしまった。
「好きな子の気を引きたくて、わざわざ意地悪するって心理。まあ小学生くらいの男子によくあるんだけど―――」
「よくわかんねぇ。意地悪して好きな子に嫌われたら元も子もないじゃん」
いじめっ子の心理が理解できないのか、しきりに高崎が首を捻る。きっとこの男はSの気持ちなんて全く共感できないのだろう、と京浜東北は思う。
「ていうか、それだと宇都宮は俺のことが好きみたいじゃん?」
思考を巡らせはたと何かに勘付いたか、高崎が気色ばむ。
ようやくそこに気づいたか。遠回しな表現ではなかなか悟らない鈍感な高崎に京浜東北は内心嘆息した。
宇都宮に嫌われてるだなんて単なる思い違い―――正直、宇都宮が高崎にどう思われようと自業自得なので、知ったことじゃないのだが、高崎の落ち込みっぷりがあまりにひどかったので思わずフォローしてしまった。
だから落ち込むことなんてない、と高崎を励まそうとして、ふと京浜東北は続けようとした言葉を飲み込んだ。
待て、ここで宇都宮が高崎を好きだという事実を、本人にバラしてしまっても良いものなのか?宇都宮が高崎に想いを告げる気がないのは知っている。彼の事だ、もし自分がバラしたと知ったらどんな仕打ちを受けることか。
「そ……れはそう、かな?」
結果、微妙な表現で手を打つ羽目になってしまった。
「何だよ、それ」
歯切れの悪い曖昧な答えを返すことしかできなかった京浜東北の態度が、高崎には逆に不信感を植え付けてしまったようだった。燻っていた火種にまた火がついてしまったようで、せっかく明るくなりかけていた表情に翳りがさす。
「やっぱり、俺の事嫌いなんだアイツ」
「いやそれはないから」
「何で言い切れるんだよ。俺は自分が被害を受けたからわかる、アイツ絶対俺のこと嫌ってる!この前だって―――」
言いかけて、ハッとしたように高崎は口を噤み、自身の意見の根拠を言い淀んだ。バツが悪い事があったのか、頬に朱が走る。
「この前?」
今度は何をされたのか。気になった京浜東北が高崎の最後の言葉を鸚鵡返しで呟いた。
高崎はしばし言いにくそうにしていたが、京浜東北の視線が自分に向けられているのを見て、躊躇いがちに口を開いた。
「その、この前……アイツに、………キスされた」
「……何だって?」
高崎の口から飛び出た単語に、流石に京浜東北も目を見開き、訝しむように顔色を変えた。
思い出すだけでも悔しさが込み上げるのか、高崎が目許に力を入れ声を荒げる。
「俺、やめろって抵抗したのに…!嫌がってるのわかってたのに、アイツ…笑顔で…無理矢理された」
相当悔しかったのだろう。そして結局なすがままにされてしまった自分が情けなかったのだろう。言いながら、高崎はどんよりとうなだれてしまった。
そして京浜東北は、高崎とは別の理由で黙り込んだ。
あの宇都宮が、まさかそんな直接的な態度に出るなんて。今までどんなちょっかいをかけようと、己の本心を悟られるような真似はなかったはずだ。
一層子供じみた悪戯といい、露骨な行動といい 相手が高崎だから気付かれなかったものの、どうも宇都宮の様子がおかしい。
何だろう、宇都宮は何かに焦っている。
だけど、何に?
このまま行くと、マズイ事が起きるんじゃないか―――長い歴史と経験からか、突如、京浜東北はそんな不安に駆られた。
「高崎」
「な…何だよ?」
急に張り詰めた声音で名前を呼ばれ、高崎は不安げに顔を上げた。京浜東北は戸惑う高崎を真正面に見据えて、真面目な口調で言葉を紡ぐ。
「宇都宮は君が嫌いで、嫌がらせしてるんじゃない。それは断言できる。だけど、アイツの行動にはちょっと注意しておいた方がいい。ああ、でもあんまり彼を刺激しないように、苛立たせたり怒らせるような発言は控えて。難しいとは思うけど―――」
「ちょ、ちょっと待てって!」
突然テキパキと指示を始めた京浜東北に、高崎は困惑した風で待ったをかけた。頭を抱え片眉だけしかめて、狼狽えたように京浜東北を見つめる。
「どういう事だよ、アイツに注意しろって……」
「言葉通りだよ、宇都宮の言動に気をつけておいて。何かされそうにならないように、なるべく彼に隙を見せないようにして」
「そ…んな事言われたって、何を注意したら…」
今だって、何故宇都宮が自分に意地悪をするのかわからないでいるのに、何を警戒しろというのか。
高崎が途方に暮れる。京浜東北が一体何を言わんとしているのか、わけがわからない。
「なあ、アイツどうかしたのか?お前知ってるなら………」
「具体的なことはわからないんだけど、何かヤバい気が」
と、京浜東北が己の抱いた不安を話しかけたその時。
不意にガチャリと屋上のドアが開き、同じJRの制服を着た、背の高い男が姿を現した。
扉の向こうに現れたその人影に、京浜東北と高崎の表情が凍りつく。
「宇…都宮…」
高崎と同じ橙色の制服。ウワサをすれ何とやらと言うが、現われた第三の男は今まさにウワサをしていた宇都宮だった。
「こんなところで油売ってていいの?もうじき出発でしょ」
薄く笑みを浮かべ、宇都宮が蛇に睨まれたカエルの如く微動だにできずにいる高崎に向かって話しかけてくる。皮肉にも、それが今日最初にかけられた言葉だった。
宇都宮は並んで立っている京浜東北には目もくれず、つかつかと高崎に歩み寄ると、身動きできない高崎の腕を掴んだ。
「行くよ」
宇都宮が力任せに高崎の腕を引き、今し方自分が出てきたドアへと踵を返す。抵抗もなく、高崎は宇都宮に引きずられるようにフェンスを離れた。
顔は笑っているが、目が笑っていない。何より腕を掴む手がきつく、有無をいわせぬ力で握りしめているのに、高崎は恐怖を感じて逆らえなかった。
ただ、救いを求めるように京浜東北に視線を向けた。だが京浜東北も宇都宮の気迫に圧されたのか、何も言えず哀れむような瞳を高崎に返すしかなかった。
ごめん、高崎。頑張れ。
京浜東北は為す術もなく連行される高崎の後ろ姿に、音にはできないエールを心の中で贈った。
駅屋上。待ち合わせの時間待ちの間、フェンスにもたれながら外の風にあたっていた高崎がしょげた様子でそう呟くのに、隣で聞いていた京浜東北は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「………は!?」
京浜東北は別に高崎の発言を理解しなかったわけではない。前フリも何もない発言だったが、高崎がアイツ呼ばわりしたのが誰のことかなんて、尋ねるまでもなかった。
そもそも高崎にこんな顔をさせられる奴、1人しかいない。
同じ橙色の制服を来た、笑顔の裏に毒を持つ男。一卵性双生児のように背格好も顔立ちもそっくりなのに、醸し出す雰囲気があまりに違いすぎて見分けがつく。
叫んだ拍子にズリ落ちた眼鏡を直しながら、京浜東北はやや呆れ気味に溜息をついた。
「…今度は一体何されたの」
「今朝からずっと無理されてる。一言も口きかないし目も合わせない。機嫌悪いのかと思ったけど、他の奴には普通に話してるし」
またあの男はくだらない意地悪を。宇都宮が高崎にちょっかいをかけるのはいつもの事だ。
京浜東北は咄嗟にそう思ったが、しかし原因がないとも言い切れないので、俯く高崎に確認する。
「心当たりはあるの?」
「あったら悩んでねえよ」
はあ、と高崎はフェンスに懐くようにもたれながら、重い息を吐いた。頭上に広がる抜けるような青空が、場違いなくらいに爽やかで恨めしい。
「もー俺、アイツのことさっぱりわかんね。嫌いならいっそつきまとったりしなければいいのに」
おそらく今朝からずっと悩んでいたのだろう。根が真面目な高崎のことだから、自分に何か非があったのではないか、怒らせたのではないか、そんな事をぐるぐる考えていたのに違いない。
悩みすぎていささか自棄になっている高崎の言葉に、え、と京浜東北は眉を寄せた。
「それはないでしょ。宇都宮は嫌いな人間には何かやむを得ない事態がない限り、近寄ろうとしないよ」
それこそ君の上官とかさ―――と、口にはしなかったが京浜東北は彼の毛嫌いしている、上を走る深緑の制服の男を思い浮かべた。まああれはある意味同族嫌悪だけれど。
だが高崎は京浜東北の意見には納得しかねたようで、むっとして口を尖らせた。
「じゃあ何で俺ばっかり嫌がらせされるんだよ。ここ最近だけでも俺のアイス勝手に食ったり、ジュースにタバスコ入れたり1時間に60回携帯に留守電入れてみたり」
「それはまた…随分と……」
宇都宮にしてはひねりのない、可愛らしい意地悪だこと。それでは嫌がらせ、というより単なるちょっかいである。あの男が頭を使わない悪戯を仕掛けているなんて考えられないのだが、それは軽い挨拶のようなものか、それともよほど余裕がなくなっているのか。
京浜東北が思わず絶句したのはあの宇都宮が稚拙といえる仕掛け方をした事についてだったのだが、高崎はそれを「度重なる嫌がらせ」への共感だと受け取ったらしい。
ヒドイだろ?とそこだけは強気で同意を求めてくるのに、突き放すように京浜東北は手のひらをぱたぱたと振った。
「いやそうじゃなくて。それは多分……構って欲しいんじゃないかと」
何でもいいから高崎に反応して欲しくて。いつもならじっくり罠にかけて楽しむのに、目についたら何かせずにはいられなくなっている。何だろう、まるで焦っているかのような―――そう、それは飢えた獣のように、見境がなくなっている。
京浜東北は宇都宮の異変をそう推察した。が、実際被害者の高崎はそれでは納得しないようで。
「はぁ?構って欲しいんなら普通にそう言えばいいじゃん。なんでそれで嫌がらせするんだよ」
「宇都宮がそんなこと素直に言うわけないでしょ」
「けど嫌がらせなんてしたって、構うわけないじゃん。余計遠ざけないか?普通」
「いやほら、好きな子はついいじめたくなる、っていうか」
「何それ」
きょとん、と首を傾げた高崎に、知らないの?と京浜東北は逆に問い返してしまった。
「好きな子の気を引きたくて、わざわざ意地悪するって心理。まあ小学生くらいの男子によくあるんだけど―――」
「よくわかんねぇ。意地悪して好きな子に嫌われたら元も子もないじゃん」
いじめっ子の心理が理解できないのか、しきりに高崎が首を捻る。きっとこの男はSの気持ちなんて全く共感できないのだろう、と京浜東北は思う。
「ていうか、それだと宇都宮は俺のことが好きみたいじゃん?」
思考を巡らせはたと何かに勘付いたか、高崎が気色ばむ。
ようやくそこに気づいたか。遠回しな表現ではなかなか悟らない鈍感な高崎に京浜東北は内心嘆息した。
宇都宮に嫌われてるだなんて単なる思い違い―――正直、宇都宮が高崎にどう思われようと自業自得なので、知ったことじゃないのだが、高崎の落ち込みっぷりがあまりにひどかったので思わずフォローしてしまった。
だから落ち込むことなんてない、と高崎を励まそうとして、ふと京浜東北は続けようとした言葉を飲み込んだ。
待て、ここで宇都宮が高崎を好きだという事実を、本人にバラしてしまっても良いものなのか?宇都宮が高崎に想いを告げる気がないのは知っている。彼の事だ、もし自分がバラしたと知ったらどんな仕打ちを受けることか。
「そ……れはそう、かな?」
結果、微妙な表現で手を打つ羽目になってしまった。
「何だよ、それ」
歯切れの悪い曖昧な答えを返すことしかできなかった京浜東北の態度が、高崎には逆に不信感を植え付けてしまったようだった。燻っていた火種にまた火がついてしまったようで、せっかく明るくなりかけていた表情に翳りがさす。
「やっぱり、俺の事嫌いなんだアイツ」
「いやそれはないから」
「何で言い切れるんだよ。俺は自分が被害を受けたからわかる、アイツ絶対俺のこと嫌ってる!この前だって―――」
言いかけて、ハッとしたように高崎は口を噤み、自身の意見の根拠を言い淀んだ。バツが悪い事があったのか、頬に朱が走る。
「この前?」
今度は何をされたのか。気になった京浜東北が高崎の最後の言葉を鸚鵡返しで呟いた。
高崎はしばし言いにくそうにしていたが、京浜東北の視線が自分に向けられているのを見て、躊躇いがちに口を開いた。
「その、この前……アイツに、………キスされた」
「……何だって?」
高崎の口から飛び出た単語に、流石に京浜東北も目を見開き、訝しむように顔色を変えた。
思い出すだけでも悔しさが込み上げるのか、高崎が目許に力を入れ声を荒げる。
「俺、やめろって抵抗したのに…!嫌がってるのわかってたのに、アイツ…笑顔で…無理矢理された」
相当悔しかったのだろう。そして結局なすがままにされてしまった自分が情けなかったのだろう。言いながら、高崎はどんよりとうなだれてしまった。
そして京浜東北は、高崎とは別の理由で黙り込んだ。
あの宇都宮が、まさかそんな直接的な態度に出るなんて。今までどんなちょっかいをかけようと、己の本心を悟られるような真似はなかったはずだ。
一層子供じみた悪戯といい、露骨な行動といい 相手が高崎だから気付かれなかったものの、どうも宇都宮の様子がおかしい。
何だろう、宇都宮は何かに焦っている。
だけど、何に?
このまま行くと、マズイ事が起きるんじゃないか―――長い歴史と経験からか、突如、京浜東北はそんな不安に駆られた。
「高崎」
「な…何だよ?」
急に張り詰めた声音で名前を呼ばれ、高崎は不安げに顔を上げた。京浜東北は戸惑う高崎を真正面に見据えて、真面目な口調で言葉を紡ぐ。
「宇都宮は君が嫌いで、嫌がらせしてるんじゃない。それは断言できる。だけど、アイツの行動にはちょっと注意しておいた方がいい。ああ、でもあんまり彼を刺激しないように、苛立たせたり怒らせるような発言は控えて。難しいとは思うけど―――」
「ちょ、ちょっと待てって!」
突然テキパキと指示を始めた京浜東北に、高崎は困惑した風で待ったをかけた。頭を抱え片眉だけしかめて、狼狽えたように京浜東北を見つめる。
「どういう事だよ、アイツに注意しろって……」
「言葉通りだよ、宇都宮の言動に気をつけておいて。何かされそうにならないように、なるべく彼に隙を見せないようにして」
「そ…んな事言われたって、何を注意したら…」
今だって、何故宇都宮が自分に意地悪をするのかわからないでいるのに、何を警戒しろというのか。
高崎が途方に暮れる。京浜東北が一体何を言わんとしているのか、わけがわからない。
「なあ、アイツどうかしたのか?お前知ってるなら………」
「具体的なことはわからないんだけど、何かヤバい気が」
と、京浜東北が己の抱いた不安を話しかけたその時。
不意にガチャリと屋上のドアが開き、同じJRの制服を着た、背の高い男が姿を現した。
扉の向こうに現れたその人影に、京浜東北と高崎の表情が凍りつく。
「宇…都宮…」
高崎と同じ橙色の制服。ウワサをすれ何とやらと言うが、現われた第三の男は今まさにウワサをしていた宇都宮だった。
「こんなところで油売ってていいの?もうじき出発でしょ」
薄く笑みを浮かべ、宇都宮が蛇に睨まれたカエルの如く微動だにできずにいる高崎に向かって話しかけてくる。皮肉にも、それが今日最初にかけられた言葉だった。
宇都宮は並んで立っている京浜東北には目もくれず、つかつかと高崎に歩み寄ると、身動きできない高崎の腕を掴んだ。
「行くよ」
宇都宮が力任せに高崎の腕を引き、今し方自分が出てきたドアへと踵を返す。抵抗もなく、高崎は宇都宮に引きずられるようにフェンスを離れた。
顔は笑っているが、目が笑っていない。何より腕を掴む手がきつく、有無をいわせぬ力で握りしめているのに、高崎は恐怖を感じて逆らえなかった。
ただ、救いを求めるように京浜東北に視線を向けた。だが京浜東北も宇都宮の気迫に圧されたのか、何も言えず哀れむような瞳を高崎に返すしかなかった。
ごめん、高崎。頑張れ。
京浜東北は為す術もなく連行される高崎の後ろ姿に、音にはできないエールを心の中で贈った。
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