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こんにちは、すっかりご無沙汰しておりました。
えと、震災で更新ができなかったとか、そういったことではないのでご安心(?)ください。
単なる無精です(爆)。
震災は色々ありましたが本人も周辺もとりあえず無事でした。当日は帰宅難民になりかけたりもしましたが、今はいたって平常運行です。計画停電とかの影響すらなくて、申し訳なくてセルフ節電してるのでPCを極端に開かなくなりましたが。
被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
世の中自粛モードではあるんですが、そろそろ活動も復帰させていこうと思います。ウチの駄文でも、読んで気を紛らわせたり和んでいただければ、と。
そんなわけで久しぶりの更新はうつたかSSです。今日にちなんで。
「たーかさきっ」
やけにテンションの高い声でそう呼ばれて、高崎はギクリとしながらも立ち止まった。
振り返る前にもう相手はわかっている。宇都宮だ。
あいつがこんな風に機嫌がいい時は大抵良からぬことを企んでいる時だ。わかっていたのに、次の瞬間高崎はドクンと心臓が高鳴ってしまった。
声のした方向に高崎が振り返る前に背後から腕が伸びてきて、宇都宮に抱き締められる。
「うつ…っ?」
突然の抱擁に目を見開いた高崎は身を捩り背後の男の顔を見ようとした。だが、宇都宮は強い力でそれを阻み、高崎を振り返らせてはくれなかった。
ぎゅっと密着した宇都宮の頭が、肩口に寄せられるのが気配でわかる。そして徐にその声が耳元で囁かれた。
「愛してる」
ゾクリ、と高崎の身体が震えたのは熱っぽい声の響きにか、それともその言葉の重みにか。
時計の針や様々な機械の稼働する音、それまで周囲に雑多な音があったはずなのに全てがシャットアウトされ、宇都宮の声だけが脳に直接吹き込まれるかのように響く。
「いつだってキミのことだけ考えてる。キミを、僕だけのものにしたいんだ」
囁く宇都宮の声は低く、やや震えていた。熱い息が高崎の耳を擽り、それだけでも身体の芯が疼く。
これは、嘘だ。宇都宮がそんなことを言うはずがない、きっと巫山戯ているのに決まっている…それでも、高崎の心臓は早鐘を打ち続けていた。冗談よせよ、と宇都宮の腕を振り払えばいいのに、それもできない。
「なーんてね。ウ・ソ」
かと思うと突然声のトーンががらりと変わり、ぱっと手が離れて高崎はあっさり解放された。
ようやく振り向けばいつもの飄々とした宇都宮が笑っていて。
「驚いた?エイプリルフール」
「お…っおま、え、…っ!」
くすくすと笑う宇都宮に、高崎は顔を真っ赤にして拳を振り上げ食ってかかった。最初から嘘だとわかっていたのに、それでもこみ上げてくるこの感情が、怒りなのか落胆なのか高崎にもわからなかった。
嘘とバレてもまた心臓は落ち着かなくて、頭に血が上ったまま高崎は宇都宮の胸ぐらを掴んだ。
悔しい。自分だけが翻弄されて、心臓が痛いくらいに鳴っていて、なのにそうさせた張本人はへらへらと笑っているのが憎らしい。こいつにも、相応の気持ちを味あわせてやりたい。
沸き上がる想いに突き動かされ、衝動的に高崎は掴んだ胸元ごと、宇都宮を引き寄せた。
近づく顔がちょっと意表をつかれたように目を見開く。その唇に、高崎は己のそれを押しつけた。
「!」
思ったよりも、柔らかな感触。触れた箇所から宇都宮が息を呑むのが伝わってきた。
ほんの僅か触れあわせただけで唇を離し高崎が身体を引くと、宇都宮が目を丸くし固まっているのが見える。いつも余裕ぶっている彼が呆気に取られているのを見て、高崎は胸がすっとした。
「し、仕返しだ、バーカッ」
が、そう言い捨てて、高崎はその場から逃げるように駆け出した。
確かにやられっぱなしにはしたくない、その思いはあったし実際にしてやったりという気持ちはある。しかし、直後己の取った行動の示すものに遅ればせながら気づいて、いたたまれなくなってしまったのだ。こんなの仕返しじゃない―――自分の欲求が形になってしまっただけ。
だからそれ以上追及されたくなくて、高崎はその場を逃げ出した。
今ここで、その意味を問い質されたりしたら―――多分、取り繕うことはできないだろうから。自分は彼ほどに嘘が上手くない。きっと本心を暴かれてしまう。
もうずっと宇都宮だけを見つめていた、なんて。
一方、取り残された宇都宮は、高崎を追いかけることもせず、その場に立ち尽くしていた。
唇に残る、高崎の感触。そこに指で触れると、その瞬間を思い起こして掌で口元を覆った。彼にしては珍しく、その視線が狼狽え頬が赤く染まる。
「……こんなの嘘とか冗談なんてレベルじゃないじゃないか……反則だよ、高崎」
普通に赤くなって怒るキミが見たかったのに。それだけで充分だったのに。
これじゃ、都合良く解釈してしまう自分の心を止められなくなる。もしも期待が外れていたらそれこそ深い絶望が待っているだけなのに。
一度堰を切ってしまったら、もう後には引けなくなってしまう。溢れ出す想いは高崎を押し潰してしまうかもしれない。だけれど、もしそれを高崎が受け止めてくれるのなら。
ねえ高崎……期待してもいいの……?
高崎が駆け去った方角を見つめながら、宇都宮は心の中でいつまでも残るオレンジ色の背中に問いかけた。