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昨日は埼京山手がとんでもないことになってましたね。3時間半で26万人に影響て流石都心の大動脈……
埼京はうつたかと山手に責められまくって泣いてそうです。
まあそんな架線トラブルとは全然関係ないんですが、うつたかSSアップです。
今頃になってホワイトデーです、バレンタインが1週遅れならホワイトデーは10日遅れだ!(爆)
最近文章力が急激に落ちてきていて、SS1本書くのにも四苦八苦です。
天啓が降りてくるといいのに………。
ふと気になって印刷所のスパコミ締切を調べたらちょうどあと1ヶ月でした。
ぎゃーーーー!!(悲鳴)げ、原稿やんなきゃ…!!
「うー……」
大勢の人で賑わう大宮駅の駅ナカの一角で、高崎は険しい表情をして目の前のショーケースを睨みつけていた。
ガラスケースの前で腕組みをして、しかめっ面で仁王立ちすることおそよ5分。
高崎の視線の先にあるのは色とりどりにラッピングされた洋菓子だった。
カラフルなマカロンやクッキー、チョコなど、スウィーツ好きなら見ているだけでも心が躍りそうなラインナップだ。現に、何人かの女性が店の前で動かない高崎を怪訝に思いつつも、それぞれ何かお目当てのものを購入していった。店の前で腕組みした長身の男が特に物色するわけでもなく5分も立ち尽くしていたら、誰だって疑問に思うだろう。
とはいえ、高崎が目立っているのは駅ナカのスウィーツコーナーで微動だにせずただショーケースを眺めているからであって、けして男性がスウィーツを買いに来ているからではなかった。いつもは確かに女性が多い一角ではあるが、この日は逆に男性客もちらほら目に入ってくる。店舗の店員たちも積極的に男性に対して声をかけていた。
そう、この日はホワイトデーだった。先月のバレンタインデーが終了した直後、フロアは一転してホワイトデーの商戦となっていた。
当日である今日はいつにも増して男性の姿が見える。バリエーション豊かなスウィーツを前に混乱している男性もいるので、きっと高崎もバレンタインのお返しを探しに来て悩んでいるのだ、と思われているに違いなかった。
それはある意味正しくて、ある意味的外れ、といえた。
ここに来ている男性のうち、大抵の人間は受け取る相手が何を贈れば喜ばれるか、で迷っているのだろう。だが高崎の場合、何を贈れば何事もなく平穏無事に終われるのか、彼はそれを必死で考えていた。「平穏無事に」とは物騒な話だが何しろ返す相手が一筋縄ではいかない男である、ヘタな物を返したら己の身にどんな災厄が降りかかるとも知れない。
高崎がホワイトデーのお返しを渡そうとしている相手は宇都宮だった。
彼からいきなりバレンタインのチョコをもらったのが一月前の今日。しかも外包装は高級チョコのブランドで、中身がキムチチョコという手の込んだ嫌がらせをされた。そうとは知らずに高崎はそれを口に放り込み、突き抜けた新感覚(苦笑)に涙を浮かべながら飲み込んだ。それは恋人になっても毎年毎年バレンタインの存在を忘れ、何もしてくれない高崎への、宇都宮の仕返しだった。
そのくせ「お返しは3倍でね」なんて平然と言ってのける。なら嫌がらせを3倍返ししてやろうかと思ったら、そういうことをしたら高崎の身体に報復するよ、としっかり釘を刺されてしまった。
宇都宮はやるといったら絶対にやる、特に受けた嫌がらせに対する報復は3倍どころか10倍くらいで返ってくるだろう。
かといって何も返さずにいたりしたら、それもやっぱり攻撃されるに違いなかった。
そんなわけで、高崎は宇都宮に仕返ししてやることもできずかといって無視することもできず、途方に暮れていたのだった。
はぁ、と無意識にため息が零れる。
すると、その呼吸音を聞きつけられたのか、浮かない顔をしていた高崎は後頭部をパコン、と堅いもので叩かれた。
「何辛気くさい顔してるんだい、華やかな場所で」
その声にはっとして高崎が振り返ると、高速鉄道の新緑の制服が目に入る。
高崎のすぐ背後に上司でもある上越新幹線がファイルを片手に呆れ顔で立っていた。
「あ…上官」
「何こんなところで油を売ってるんだい?まさか買い物に来たわけでもないんだろう?」
「あー……いえ、その」
高崎とスウィーツ。その取り合わせはないと踏んだのか、決めつける上越に高崎が言い淀む。
ちらりと高崎が視線を流した「WHITE DAY」の看板に、上越はそれだけで悟ったのかすぐに興味深げに高崎の顔をのぞき込んできた。
「何?バレンタインもらったの?まさかあの彼氏に?」
彼氏、とは勿論宇都宮のことである。上越は高崎が宇都宮とそうした関係にあることを承知している。が、それにしてもあっさりと見抜かれてしまい、高崎はバツが悪そうに鼻の頭を掻いた。
普通に女の子からもらった、という選択肢がないのは何故なのだろう。
「え…と、まあ………」
「へー、それで何を返そうかって色々悩んでたんだ?随分可愛いことしてるじゃない」
顎に指を当て上越がにまにまと微笑む。明らかに揶揄を含む上官の視線が居心地悪く、高崎はきらびやかなショーケースに目を移した。
「だったら、こんなとこで悩んでないで今晩にでも彼氏のとこ行けば?首にリボンでも巻き付けてさ、美味しく食べてって言えば喜んでもらってくれるんじゃないの」
くすくすと笑いながら、上越が提案する。
すると、からかっているとしか思えない上越のアドバイスに、高崎は心底嫌そうに声を荒げた。
「じょ、冗談じゃないです…!何でそんなアイツを喜ばすことしなきゃなんないんですか!」
「は?だってフツーは相手に喜ばれるプレゼントをするもんじゃない?だったらそれで間違いはないでしょ」
言えば高崎がムキになって否定するとは思っていたが、予想以上に嫌悪を露わに真っ向拒否され上越がきょとんとする。首を傾げる上越に、高崎は弱り果てた顔でふるふると頭を横に振った。
「いや、必要以上に喜ばせなくていいっていうか…むしろ拍子抜けしてくれるくらいが丁度いいっていうか…」
「だったら何でもいいから適当に買って渡せば?」
「でも、あんまりどうでもいいチョイスすると絶対何か言われるし……」
「面倒くさいなぁ、結局彼氏を喜ばせたいの、そうでないのどっち」
煮え切らない高崎の態度に上越が苛つき、腕組みした先の指がトントンと拍を刻む。段々と上司の機嫌が悪くなるのを感じながら、高崎はしゅん、と項垂れつつも自分の希望を口にしてみた。
「宇都宮を調子に乗らせないけどちゃんとホワイトデーはやった、って言えるものが欲しいです。できればあんまり金がかからない方向で」
「………何その微妙な条件」
「その条件でないと、俺の身が危ないんです」
宇都宮を喜ばせてしまうようなプレゼントは却下。こちらはバレンタインに嫌がらせされたのに、アイツだけ得をするのは納得がいかないし、あまり上機嫌にしてもやっぱり大変なことになりそうな気がする…ことにベッドの中で。
だからといって仕返しをしたりどうでもいいものを贈ると、宣言通り己の身に跳ね返ってくる。
その中間にある、なるべく無害なプレゼントを選ぶというのは実に難しい課題だった。
本気で高崎が困り切っているのを見て取った上越は、しばし腕組みしたまま遠くを見遣り思考を巡らせていた。
やがて、溜息を一つつくとじっと上越の言葉を待っていた高崎に向かって口を開く。
「…お前、彼氏の好物とかはわかってる?」
「……一応、いくつかは」
「なら、一つ案を伝授してあげる。耳貸しな」
来い来い、と人差し指で手招きする上越に、高崎は顔色を明るくすると上官の傍に寄り耳を差し出した。
その晩。
「ほれ」
高崎は仕事を終え帰宅すると、当然の如く一緒に自室に上がり込んできた宇都宮に白い袋を突き出した。
「…何これ」
目の前にぶさ下がるものをじっと見つめて宇都宮が怪訝そうに問う。緑の印刷が入った白いそれは明らかに近所のスーパーのレジ袋。その中に入っているのは何やら重そうで、掴んでいる高崎の手からずっしりと下がっている。
「いいから受け取れよ。お前が要求したんだろ、ホワイトデーのお返し」
「………ふうん?買ってきてくれたんだ?」
「だってお前やらなかったら絶対文句言うじゃねぇか」
腕を突き出したまま憮然としている高崎に、宇都宮はくすりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「月半ばには金欠のキミに、まさか準備できると思ってなかったよ。代わりに好きにしてくれ、とでも言うかと思ってたのに」
「生憎、そういう期待してんだろうと思ってたから何が何でも用意したんだよ」
「……期待だなんて心外だなぁ、現状から予想してただけだよ」
まあそれでも良かったんだけどね、そしたら試してみたいことたくさんあったのに、とさらりと爆弾発言をかまして宇都宮が高崎の手から袋を取り上げる。
そうしてガサリと袋を開いて―――宇都宮の顔が固まった。視界に飛び込んできたものに意表を突かれ、息を呑み瞬きを忘れている。
その瞬間を見られただけでも、高崎はしてやったり、と胸がすっとした。
「………何、これ」
宇都宮がレジ袋の中に手を突っ込み、中の物体を取り出す。掌の上に取り上げられたのは―――
缶、だった。
よくある銀色の円柱フォルムに、臙脂色を濃くしたようなラベルが巻き付いている。そこに黄色い文字でくっきりと書かれていたのは、「しっとりあずき」の文字。
ごく一般に販売されているあずきあんの缶詰であった。それも一缶ではない、袋には三缶ほど入っている。道理で袋が重いはずだった。
「何って、あずき缶。お前粒あん好きだろ?」
見れば一目瞭然のものを、自慢げに高崎が説明する。
「一応北海道産の大納言てあずきを100%使ってる、ってちょっと高いヤツなんだぜ。俺あずきなんてわかんねえし、ちゃんと店員さんに聞いてから買ったんだからな」
店内での経緯を語りながら高崎は企みが上手くいったことに内心笑みを零し、アドバイスをくれた上官に感謝した。
上越の指令は簡単だった。「好物の、なるべく素材そのものを贈ること。例えばショートケーキならイチゴ、とかね。ただし素材自体はいいもので」。そこで高崎は宇都宮の好物である粒あんから、あずきそのものを用意した。確かに相手の好物を考えてのチョイスで、一応お返しとしての高級感を出しつつ、しかしガックリさせることのできる逸品である。どんな好物でも、それそのものが好きな場合を除いて、素材だけをもらって狂喜する人は多いとは言えないだろう。
心して食えよ、と念を押す高崎と手にした缶詰を交互に見遣り、宇都宮は高崎の期待通り肩を落とした。
「心して…ね。いいけど、………これあずきしか入ってないんだよ?」
「そりゃそうだろ、あずき缶なんだし」
「普通それだけで食べるものじゃないだろ、あんこは。最中とかあんみつとか、せめて饅頭とかそういう発想はしないの、キミは」
「なんだよ、せっかくお前のことを考えて買ってきたのに、文句つけるのかよ?」
「50点」
宇都宮は手の缶を一巡させ眺めた後にそれを床に下ろすと、残念そうに高崎にそう告げた。
「まああくまでも相手の好物に沿って選びつつ、贈り物としてはイマイチな物という、僕に反撃する意味では素晴らしい選択だったけどね。僕言ったよね?ホワイトデーは3倍返しが基本だって。一缶298円×3で894円としても僕が出した金額にも満たないよ、随分安く見積もられたものだね?」
「お…お前、何で知ってんだよ…ッ!?」
レシートを見られたわけでもないのに、ずばり金額を言い当てる宇都宮に図星だったのか高崎が目に見えて狼狽える。大きく目を見開いた高崎に、宇都宮は小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ホントにキミは馬鹿だよね、近所のスーパーに売ってる好物の値段を僕が知らないと思うの?」
「う……」
こんなものは推理のうちにも入らない。宇都宮に指摘されて高崎が反論する言葉を失う。そこに畳みかけるように宇都宮の嘲弄が続いた。
「せめて地元から離れたスーパーに行くとかすればいいのに、手近で済ませようとするからだよ。ま、大方今日になってどうしようか悩んで、遠出する暇はなかったんだろう?1ヶ月前にあれだけ釘差してやったのに結局当日になるまで放置して、まったく危機管理能力がないねキミは」
もっとも、とそこで宇都宮は言葉を句切りぶすっとむくれる高崎の頬に手を添え持ち上げた。
真っ向から見つめるとふわり、と微笑する。
それはもう、優しい眼差しで愛おしげに。
「僕のために、ホワイトデーのお返しを返そうと一生懸命悩んだことだけは認めてあげる」
「宇都宮……」
宇都宮の優しい言葉に高崎は胸がジーンと痺れ、釣られて笑みが零れた。
だが高崎は忘れている。
宇都宮がそんな慈悲深い微笑みを浮かべている時ほど、本当は一番危険だということを。
「それじゃ、これで勘弁してくれるのか…?」
「それとこれとは話が別」
宇都宮は眼差しだけはあくまで天使のように穏やかに、しかし口の端を不敵に釣り上げると無防備な高崎の肩を掴みそのままゆっくり押し出した。
「あ…?」
抵抗もなく高崎の身体が床の上に倒れる。高崎が目を上げると、上に覆い被さってきた宇都宮の顔はもういつもの意地悪い笑みを浮かべていた。
「言っただろう?50点、て。つまりは落第ってことだよ」
「そんな…!」
「落第生にはしっかり補講してやらないとね。そうだな、せっかく貰ったんだから一缶目は心して食べさせてもらうことにするよ、キミの身体を皿代わりにして」
にっこりととんでもない計画を立て微笑む宇都宮に、ざあ、と高崎の顔から血の気が失せる。その間に宇都宮はうきうきしながら、いそいそと高崎のシャツのボタンに手を掛けた。
「楽しみだね、残り二缶はどうやって食べようかな。高崎に全部口移しで食べさせてもらうのもいいかもね」
「うつのみやぁ………」
ねぇ?とご満悦顔で高崎に同意を求める宇都宮に高崎は泣きそうな顔をすると、諦めて目の前の男の為すがままにされていくのであった。
それより少し前。
「……ま、あの東北の部下の彼氏があれくらいで黙らせられるとは思わないんだけどね」
どうせ何だかんだで好きにされるのだろう。何しろたとえ万全の準備をしていたって、高崎は隙だらけなのだから。
昼にアドバイスをやったものの、おそらくは同じ結果にしかならない己の部下の今晩の運命を想像しながら、上越は小さく肩を竦め苦笑していたのだった。