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ガリガリドルドル、五月蠅いことこの上ないです。途中から耳栓してました。
部屋の壁紙は迷いますねー、色々。
しかし内装にしても家具にしても、ついついオレンジに目が行くのはナイショです(笑)。
ほっとくとオレンジまみれになりそう、自分の部屋。
昨日は舞台見に行ってたんですが、新宿から渋谷まで意地で湘南ライン使って帰ってきました。
それも最終の高崎-東海道。ああ宇都宮に乗りたかった…。
さて、お約束のSS1本UPです。今更ですけど1週間遅れでバレンタインです(苦笑)。
あと1本書きかけてるのでこちらも終わったらUPします。
だからその前に書きかけを終わらせようよ自分……(現在書きかけ2本放置)
本文は続きに。
「はい」
そういって宇都宮から高崎の前に差し出されたのは、10cm四方の小さな箱状のものだった。
高崎は目の前に現われたピンクとオレンジの包装紙でくるまれたその箱と、それを差し出した宇都宮の満面の笑顔を見比べると、怪訝そうに顔を顰め一歩後ずさった。
「………なんだよ、それ」
宇都宮はそれはそれはいかにも爽やかで無害そうな笑顔を絶やさず、高崎が動くのを待っている。こういう笑みを浮かべている時の宇都宮に関わると、大抵ロクなことがない。
長年の経験で身に染みている高崎は、素直に出されたものに手を伸ばすことはせず、まずは確認を取った。
まあもっとも、それで宇都宮が何かを企んでいた場合、素直に答えを言うとも思えないのだけれど。証言と事実が異なっていた時に「嘘つき!」と詰るくらいの保険にはなる。
「何って、チョコレート」
「何で唐突にチョコなんだよ」
高崎が訝しげに宇都宮の顔を見遣ると、宇都宮は心外そうに目を軽く見開いた。
「だって、バレンタインじゃない。今日」
「……あ」
宇都宮の言に、高崎は思わず壁にかかったカレンダーを見やった。そういえば、今日は2月14日だ。言われてみれば今日はやけに駅が混雑していた気がしたが、今日が当日だったのか。
1月も半ばを過ぎると確かにバレンタインの商品が駅ナカに並んだりピンクの装飾に切り替わるので、またそんな時期なんだなぁとは認識していたが、逆に毎日見ているのでいつが当日なのかわからなくなってしまうのだ。基本的に自分は関係ないと思っている高崎は、毎年結局ホワイトデーの青と白の装飾に変わることで、「バレンタインデー過ぎたんだ」と遅すぎる確認をしている。
やっぱり忘れてた、と宇都宮が少しだけむくれたように口を尖らせた。
「待ってても高崎は僕にくれなさそうだからさ、今年は僕の方が用意することにした」
高かったんだから心して食べてよね、と促すように箱を突き出され、高崎は照れくさそうに頷くと今度は素直に受け取った。
よく見ると、高崎でも知っているような有名チョコレートブランドのロゴが包装紙に印刷されている。高崎は高級チョコを自分で買って食べるほどの甘党ではないので、お土産や差し入れでもらわない限り口にしないものだ。チョコを食べたいなら、たった一粒に百円以上払うくらいならそこらのコンビニで板チョコ一枚買った方がいいと思っている。おかげで百年の間でも滅多に口に入れたことがない。
だからといって憧れがないわけでもないので、貰えれば素直に嬉しいし、食べてみたい。
もっともそれを貰った相手が宇都宮、というあたりが裏がある気がして単純に喜べないのだけれど。
「…これ、食ったら代わりに何かしろ、とか言わないよな…?」
「何言ってるの、バレンタインのお返しといったらホワイトデーでしょ。来月楽しみにしてるよ」
「え、それって俺がお前に何かやればいいんだよな?」
「そういうことだね」
それなら宇都宮に変な要求をのまされる、という心配もなさそうだった。
ほっとして、高崎は掌にのせた箱をじっと見つめた。
「食っていい?」
「あげたんだから、ご自由に」
「サンキュ」
宇都宮の了解を得ると高崎はいそいそと包装紙を剥がし、包まれていた小箱を取り出した。フタを開けると金色の薄紙にくるまれたチョコが4つほど。いかにも高級そうで、「おお」と高崎が感嘆する。
さらに金紙を剥くと艶やかなチョコの粒が現れる。高崎はそれを指先で摘むと、ぽい、と口の中に放り込んだ。
とろりとチョコの味が口の中でほどける。
これが高級チョコの味か、と広がる甘みに高崎は表情を緩め―――
その直後から、じわじわと高崎の表情が何ともいえない微妙な顔つきに変化していった。
「うつのみやぁ……」
眉をハの字に下げ、何とも情けない表情で高崎は目の前で涼しい顔をしている宇都宮を見つめた。
口内のものを飲み込めずに口の中で持て余しているらしく、口の端が釣り下がっている。吐き出したいのを堪えているようだった。
「………これ、なに………」
チョコの中にはクリームが隠れていた。それ自体は高級チョコにはありふれているので別に驚くことでもないが、今回の場合、甘さの後にやってきたのは、妙な匂いと舌を刺す刺激だった。簡単に言うと臭くて辛い。
こんな奇妙な味は絶対に高級チョコレート屋のものではない。盛大に眉を顰め高崎が目尻に涙を浮かべ宇都宮を睨みつけると、宇都宮はにっこりと無邪気な笑みを見せた。
「うん、キムチチョコ」
「キ……うえぇぇ!?」
辛みの正体は韓国特産の唐辛子の漬け物だった。間違ってもチョコと合うシロモノではない。
答えを聞いた途端、見るからにげんなりと落胆する高崎に、宇都宮は満足げに極上の笑顔を浮かべた。
それはもう、きらきらとした眼差しで。
「だって高崎、キムチ好きでしょ?それ国内じゃ売ってないからさ、取り寄せるの苦労したんだからね。ちゃんと味わって食べてね♪」
「キムチとチョコは別々で食うもんだろぉ………」
確かにキムチは好きだがそれはけしてチョコの中身としてではない。バラバラで食べればどちらも美味いものなのに、一緒にした途端にどうしてこうも不味くなるのか、こんな組み合わせを考えた、しかもそれを販売している人間の気が知れない。
「宇都宮………」
覚えてろよ、とどろどろに溶けきったキムチチョコを仕方なく無理矢理飲み込んだ高崎は、恨みがましい眼差しを宇都宮に向けた。来月、絶対に仕返ししてやる。
だがそんな高崎の思考を読んでいたかのように宇都宮は「ああそうそう」と高崎の発言を遮ると笑顔のまま冷たく言い放った。
「ホワイトデーは通常3倍返しが基本だからね。それと、粒あん入りチョコだとか、奇妙なもの寄越したら承知しないから。そんなもの持ってきたら責任取ってキミに食べてもらうよ、下の口で」
強い口調で言い切る宇都宮の笑顔が怖い。その言葉の意味を一歩遅れて理解した高崎はまず顔を赤く染めそれからざーっと青ざめさせた。
そんな高崎の前で宇都宮は嬉しそうにうふふ、と周囲に花と音符を飛ばしている。
「来月が楽しみだね、キミの愛情をじっくり確かめさせてもらうよ」
宇都宮の言葉の端々に棘がある気がするのは思い過ごしだろうか。こんな不味いチョコを食べさせられ、そのくせ来月にはちゃんと返さないといけないなんてなんて理不尽なのか。新手の嫌がらせか、と毒づきたくなって遅まきながらそれが宇都宮の嫌がらせそのものだと高崎は気付いた。
そう、これは高崎が宇都宮にチョコを用意しなかったことへの恨み。毎年毎年バレンタインを忘れて何もしない高崎への意趣返しだった。
だが今更気付いたところでもう遅い。3倍返しだなんて、給料日前には自分の昼飯すら危うい高崎に、そんな豪勢な返礼ができるはずもない。結局最後は自らの身体で支払う羽目になるのは目に見えていた。おそらくきっと簡単には眠らせてもらえないに違いない。宇都宮だってそこはよく承知しているだろうから、きっと最初からそれが目的だ。
ああ、来年はちゃんとチョコ用意しよう……。
今日から毎日でも高崎の前でカウントダウンしそうなくらいに、うきうきとした顔で見つめてくる宇都宮に、高崎は今から来月の恐怖を想像してげっそりと遠くを見つめるのだった。