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紙/端/国体劇場(青/春/鉄/道)様の二次創作ブログ。 初めていらした方はまず「このブログについて」をごらんください。
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3/10が山陽東海道の日!とか言ってからすっかりまた空いてます、なかなか落ち着いて文章なり絵なりを書いてる時間が取れません(泣)やっと今週になって少し落ち着きましたが、このままだとスパコミの原稿すら危うい(汗)
書きたい気持ちはあるのに、時間と環境がない………ぐすん。

そんなわけで遅れ遅れですが山陽東海道です。
ついでにお題にもチャレンジです。

COUNT TEN.様よりお題をお借りしています。カップリングは今のところ色々ありかな、と。
微エロテーマを指定のないように書く、予定です(苦笑)。表に載せられないのも困るので。

 「東海道ちゃ~ん……」
 愛しい者の名を呼びながら、山陽はダークオークの扉に縋っていた。
 恋人を呼ぶにしてはまるで捨てられた犬のような瞳で木製の扉にへばりつき、何とも情けない声が虚しく跳ね返る。
 扉の向こうには先ほどから山陽が連呼しているJR東海きっての稼ぎ頭がいる。その先にあるのはセミダブルのベッドが据えられたその彼の寝室だが、濃茶色のドアは今は山陽を拒絶すべく閉ざされご丁寧に鍵までかけられていた。
「なー、俺このままじゃ風邪引くよー、開けてよー」
 部屋の主に訴えかけるように、山陽はドアを拳で叩いた。
 山陽は制服ではなく、水色のストライプの入った、よくある男性用のパジャマの上下といった出で立ちだった。以前東海道の部屋に泊まりに来た時に置いていってから、それ以来ここでの寝間着になっているものだ。
 就寝前なのである意味当たり前の格好なのだが、まだ春と呼ぶには肌寒い3月の深夜である。ごく普通の綿でできているそれは、室内とはいえそれだけでは当然身体は冷える。そしてなぜか片方の手には携帯電話が握られていた。
 何度も呼びかける山陽に、元より情け深いとは言いがたい東海道の、一層冷気を増した声が扉の向こうから響く。
「夜中にうるさい、寒いならさっさと自分の部屋に帰れ」
「そんなぁ、そりゃないでしょ東海道ぉ」
 温情のかけらもない言葉に山陽が扉に向かってぼやいた。
 先ほどからリフレインする情けない懇願の声の内容と、すでにあたりは明かりの消えている時間帯という状況をも含めて考えるに、どうやら山陽は東海道に寝室から閉め出されたようだった。
 事の発端は数十分前に遡る。
 この日、山陽と東海道は一ヶ月ぶりに東海道の部屋に泊まる約束をしていた。
 仕事で忙しい上に基本的にJRのエリアが異なる2人は、宿舎すら同じになることはあまりない。無論東京に山陽の、新大阪に東海道の部屋があるにはあるが、大抵はそれぞれ自分の本社の部屋で寝泊まりするのが常だった。もちろんその方が翌朝からの仕事に都合がいいからである。
 だからどちらかの部屋に泊まる時は意図的に約束を取り付けておかないと、帰宅先すら同じにはならないのが現状だ。
 仮にも恋人同士だというのに、しかも同じ職場にいるのにそれはいくら何でも寂しい。と、いうわけで月に一度は一緒にいよう、ということでその日には交代でお互いの部屋に泊まりに行くことにしていた。
 その月に一度の逢瀬が今晩だったのだ。山陽は岡山行の山陽最終便には乗らず、東京で東海道の上がりを待って、彼の部屋に一緒に帰宅した。
 一緒にいることを目的にはしているが、もちろんそこは恋人同士である、泊まりとなれば言わずもがな、である。当然ベッドの中まで一緒にいることも想定されている。
 交代でシャワーを浴びて、寝酒にワインを交わして。ほんのりと身体が温まり、雰囲気も高まったところで山陽から誘うようにベッドにもつれ込んだ。
 いついかなる時でも気位の高い新幹線の王子様は、たとえその気でも自ら誘惑してくることはない。しかし乗り気な時は山陽の首に腕を絡ませてきたり、すんなりと脚を開いて山陽の身体を割り込ませてくれるので、そうした行動が見られた今晩は、確かに東海道にもその気があった、といえた。
 そこまではいたって順調だったのだ。
 ところがいざ山陽が東海道の寝間着に手をかけようとしたところで、無粋な電子音がサイドテーブルの上で鳴った。
「あ」
 音の発信源は山陽の携帯電話だった。せっかく作り上げた雰囲気をぶち壊され、寝室の空気が気まずくなる。
 当初山陽は無視して東海道との行為に没頭しようと思ったのだが、流れる某SF映画のラスボスのテーマに思いっきり顔をしかめた。
 着信にその曲を設定しているのはただ一人であり、そして無視すると厄介な男だった。山陽とて何も東海道と二人きりの時間を割いてまでそんな男の相手をしたいわけではないが、今出ないと後が大変になる。やむなく山陽は起きあがり、サイドテーブルに手を伸ばした。
 そして東海道もまた、山陽のその着信音が誰であるかを知っていた。現在山陽のもっぱら交渉の相手であり、そして東海道がこの世でもっとも毛嫌いする男。
 山陽が携帯電話を耳に持っていったその途端、東海道の表情がみるみるうちに険しくなっていった。
 山陽は携帯を片耳に当てながら、むっつりと口をヘの字に曲げる東海道に遠慮して、ベッドから降り部屋の外へと移動していった。何しろ東海道はあの男を思い出すだけでも機嫌が悪くなる。存在そのものが気に食わないと断言していて、当然山陽があちらとやり取りしているのを見るのも聞くのも御法度で、余所でやれ、とわめき散らされる。
 山陽にしてみればむしろそこまで意識されてるというのも羨ましいと思うのだが、無論本人に言えば大激怒されるのは目に見えているので口にはしない。
 実際のところえらく尊大な態度を除けば、仕事の話をするには簡潔にして明解なので話が早くていいのだが、少しでも東海道の耳に入る時間が短いように、と気を遣って部屋を出たのが、山陽の失敗だった。
 一歩部屋の外に出た途端、背後からものすごい勢いでドアを閉められてしまい、内側から鍵をかけられてしまったのだった。電話の向こうの主も、自分とのプライベートな時間にそいつからの電話を取った山陽も、許さない、ということなのだろう。まとめて閉め出した。
 そして山陽は扉の向こうに許しを請い続け、現在にいたる、というわけである。
「東海道ってばー………」
 山陽の呼びかけも虚しく、天の岩戸はぴくりと動かない。かといって哀しい話だが山陽ではたとえここで裸踊りをしても鉄道の天照は出てきてはくれないだろう。恋人とはいいながらも、己に東海道を揺さぶるだけの発言力はないと山陽は自覚している。
 やむなく、山陽は手にしていた携帯を開いた。
「………あ、もしもし山形?」
 その瞬間室内でガタン、と盛大に何かがぶつかる音がした。
「や、こんな夜遅くにごめんな、もう寝てたか?…ああうん、ホントに悪いんだけどさ、ちょっとオヒメサマが低気圧になっちゃってさー……うん、ごめん。今から来られ…」
 山陽の声をかき消すかのように、バタン、と大きな物音を立てダークブラウンの扉が全開した。
「このバカ山陽!」
「はい、御開帳」
 そのタイミングを逃さず、山陽は片手でドアを押さえると、にっこりと笑って東海道の横をすり抜けるようにするりと再び室内へと侵入成功した。
 ついでに東海道の腰を片手に抱きかかえると、体格の差を武器にベッドの上へと引きずり戻す。抵抗する東海道を押し倒して自らの身体を重石に拘束すると、身動きできなくなった東海道はむすっとした顔でそっぽを向いた。
 と、その視界に真っ黒な画面の携帯が映る。
 よく見ると山陽の手にした携帯は開いてはいるものの電源が入っていない。先ほど通話を終わらせた時にもう誰にも邪魔されまいと山陽が電源を落としていた。
 先ほどの山陽のさも会話しているかのような発言はすべて狂言だった。
 謀られた、と悟った東海道が顔を正面に戻すと眉を釣り上げ山陽を睨み付ける。
「貴様、騙したな…ッ」
「だーって、そうでもしないと開けてくれなかったでしょ。俺だってこんな手使いたくはなかったけどさ」
 恋人である自分がいるのに、他の男に癒しを求める東海道の仕打ちに、山陽が何も感じていないはずがない。東海道はそれは恋愛感情とは違う、と説明しているが、山陽にとって、癒しだろうが何だろうが東海道が余所の誰かに心を奪われているのは面白くない。ましてや、自分ではどうにもできない東海道の心を彼なら変えられるなんて屈辱もいいところだった。
 それ故東海道の気持ちを変えるのに彼を持ち出すのは不本意極まりなかったが、それでも他に手段がなく悔しさを呑んで山陽は扉を開く方を選んだ。
 とにかくまず中に入れてもらわなければ宥めることも懐柔することもできない。
 山陽は携帯を閉じてサイドテーブルに置き直すと、拗ねる東海道の顔にキスの雨を降らせた。啄まれるくすぐったさに東海道が肩を竦め身を捩らせる。
「元はと言えば貴様が悪いんだろう、携帯の電源など予め切ってから来い」
「それは悪かったって、けど仕事の話だったんだから仕方ないだろ」
「貴様が真面目に仕事をやらんからこんなプライベートの時間まで長引くことになるのだ、私のところに来る時くらいきっちり仕事を上げてから来い!」
「お前に専念できるように?」
「当たり前だろう!」
 東海道はきっぱりと言い切ると、まっすぐと山陽の目を見据えた。照れてムキになるだろうと揶揄したつもりが、意外な答えに軽く見開いた山陽の目と視線がぶつかる。
「貴様何のためにここにいる。私と、二人きりの時間を過ごしたいからではないのか」
「おっしゃるとおりです」
 凛とした東海道の眼差しが、山陽の瞳を射貫く。
 傍目には山陽が東海道を押し倒し、優位な立場にいるはずなのに、明らかに精神的に優劣が逆転していた。歪みのないまっすぐな東海道の言葉に、山陽は知らず知らず気圧されて口調が恋人ではなく部下のそれになる。本来は部下ではなく対等な立場のはずなのだが、いかんせん日本初の新幹線様に直接新幹線の何たるかを叩き込まれた身としては、未だどこかにへりくだる習性が身に染みこんでいるらしい。
 東海道もまた、教官のような上からの目線で体勢的には自分に乗り上げている男を見上げる。
「ならば少しでも雑念が混じらぬよう、あらゆる懸念事項をすべて潰してくるべきだろう。それとも貴様、まさかこの私を片手間で扱えるとでも思っているのか?」
「めっそうもない」
「だったら全力でかかれるよう、他をすべて片づけてから来るのが当然、というものだな。それを怠ったのは貴様の責任だ」
「まったくもって、異論はございません。……これからはもう邪魔は入らないし、お前だけに全力を注ぐから、だからもう…許して?」
 山陽は恭順の意を示し、途中から恋人の口調に戻して今度は甘えるように東海道の耳許に囁いた。
「当然だ、余分な力を残して私を組み敷こうなど、百万年早いわ」
「言っとくけど俺だって本気出したら結構すごいよ?少なくともお前より時速は出るんだぜ」
「せいぜい今のうちに胸を張っておけ、十数年後にはその事実も塗り変えてくれる」
「でも今の時点では俺のが上だけどね」
「なら、せいぜい私を唸らせてみるがいい。そこまで大きな口を叩いて、失望させるなよ?」
 ふふん、と東海道は余裕の態度を崩さず、あまつさえ山陽を挑発してみせる。その表情にもう怒りの色は見えず、山陽は許してもらえたことを知ると、愛おしげに目を細めた。
「じゃ、お望み通り全開で飛ばしてやるとしますか。リミッター解除で」
 そうして山陽が東海道の顎に指をかけ唇を重ねると、ごく自然に山陽の首に腕が回る。
 少し邪魔は入ったが、今度こそ二人きりの時間を密に共有すべく、山陽と東海道は長い長い口づけを交わすのだった。

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